はじめに、副業は法律(憲法)では禁止されておらず、原則は本業の労働時間外であれば副業を行うことは個人の自由です。憲法で「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」と定められています。

なので、基本的な考え方として、労働者は勤務時間外においては自由時間となりますので、本来は自由に自己責任において副業・兼業することができます。

ただし、企業によっては就業規則により副業・兼業を禁止しているところがあります。

そこで政府では、働き方改革の一環として就業規則から副業・兼業の禁止を変更することを推奨しています。

厚生労働省:副業・兼業

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html

企業が従業員に副業・兼業を認めるとどうなるか。

企業は雇用している従業員に対して「労働基準法」に基づいた労働管理をしなければなりません。

労働時間の管理

 労働者が雇用される形で副業・兼業を行う場合、原則として、自社と副業・兼業先の労働時間を通算して管理する必要があります。労働時間の通算は、自社での労働時間と、労働者からの申告等によって把握した他社での労働時間とを通算することで行います。

労働時間の通算とは

 労働基準法では、労働者の健康管理の観点から長時間労働によって健康を害するなど業務に支障がでないように「法定外労働時間」(1週40時間、1日8時間を超える労働時間)については、上限を設けており、また割増賃金を支払うように定めています。

労働者が使用者Aで労働した後、使用者Bで労働した場合、その労働時間は通算されます。

労働者が使用者A(先契約)と使用者B(後契約)で雇用契約による副業・兼業を行う場合、使用者Aは1日8時間を超えた労働時間に対して割増賃金を支払います。

使用者Bは、使用者Aでの実際の労働時間にかかわらず、(既に8時間労働をしたものとみなし)労働した時間全体を「法定外労働時間」とみなして、割増賃金を支払います。

労働時間の管理モデルの導入について

 厚生労働省では、労働者の時間管理や労働時間の上限設定を行うための管理モデルを導入するため、労働者が副業・兼業を希望する場合は、使用者A(先契約)が、副業・兼業先の使用者B(後契約)に管理モデルの導入を提案することを想定しています。

労働時間の上限設定

 使用者A(先契約)の事業場の1か月の法定外労働時間と使用者B(後契約)の事業場の1か月の労働時間を合計して、単月100時間未満、複数月の月平均80時間以内となる範囲で、各々の事業場での労働時間の上限を設定します。

上限設定の手順
  • 使用者Aの法定外労働時間と使用者Bの労働時間の合計の範囲を決めます。
  • 設定した合計の範囲内かつ、それぞれの事業場の36協定の範囲内で、それぞれの労働時間に上限を決めます。

具体例:

  法定外労働時間を1か月合計80時間までとすると

  使用者A:法定外労働時間 1か月50時間を上限

  使用者B:労働時間全体  1か月30時間を上限

なお、使用者Aから使用者Bに直接連絡することはなく、労働者を通じて管理モデルの導入を提案することを可能としており、使用者Aが使用者Bに管理モデルの提案をしなくても良いため、現実的には時間管理や労働時間の上限設定、割増賃金の請求などは労働者自身が使用者Bと交渉することになります。

政府の求める副業・兼業のあり方

近年、働き方改革が政府によって推進され、その施策の一環として「副業・兼業」が取り上げられたことにより、企業の副業解禁が推進されるようになりました。

日本は少子高齢化が進み、生産年齢の人口が減少傾向にあるため、働き手を確保する必要に迫られています。また、育児や介護をしながら仕事をしなければならない労働者も増えており、多様な働き方が求められています。

一般の方が良く誤解されるのが、副業・兼業が解禁されれば平日の勤務時間後や休日に副業・兼業を行って収入を増やせる、と考えてしまうことです。

しかし、政府(厚生労働省)では働き方改革で長時間労働を制限し、ワークライフバランスによる『仕事』と『生活』の調和を求めています。副業・兼業のために長時間労働が過重労働となり、健康を害し、うつ病の発症や過労死を招くことになったら本末転倒です。厚生労働省が長時間労働を奨励するわけがありません。

厚生労働省が求めている副業・兼業のあり方は、あくまでも労働基準法に則り「1日8時間、週40時間」の労働時間を守った上での副業・兼業です。

本業+副業・兼業の労働時間の合計は「1日8時間、週40時間」の範囲内で行い、これを超える労働時間は割増賃金の対象時間となります。

なので、具体例としては、平日に本業:週3日、副業:週2日を定時(1日8時間)で行うことや、1日の労働時間を本業:4時間、副業:4時間の1日8時間で行うことを推奨しています。

定年を迎える社員にセカンドキャリアの準備期間として

企業がこの制度を利用する目的には、どのような意図があるのでしょうか。

企業の中には、社員が定年を迎え、再雇用となったとき給与は半額(それ以上も)に減給され、同時に出勤日数も制限されるケースがあります。そのため、社員とすれば減額された分を副業で稼がなければなりません。

また、企業側では、定年を迎えた社員には退社していただき、新卒者を雇用して新陳代謝を図りたい。そこで、定年後や早期退職を考えている社員に対しては、リスキリングとしての副業・兼業を奨励し、セカンドキャリアの準備をしてもらいたいとの考えがあります。

企業に勤めながら副業で技術やノウハウを学んで、副業を本業にしたり、副業先に転職したりすることによって労働力を確保したい、また定年後も長く働くことによって年金の支給年齢を引き上げたい、これが政府の考える少子高齢化対策と思われます。