プロコード・ローコード・ノーコードという言葉を聞いたことはある方は多いと思います。本記事ではそれぞれの特徴や活用シーン、代表する各製品の比較や、導入事例を通じた効果および、DX推進やIT人材不足を背景に成長する日本市場の動向や今後の課題について解説します。
プロコード、ローコード、ノーコードの違い
プロコード
プログラミング言語(例: Python、Java、C++など)を使用してシステムやアプリケーションを開発する方法です。
開発者は高度な技術知識と経験を必要としコードの細部に至るまで制御が可能です。
柔軟性とカスタマイズ性が非常に高く複雑なシステムやカスタム機能の実装が可能なため、企業の大規模プロジェクトや性能が重要なシステムに多く利用される傾向があります。
開発速度はローコードやノーコードに比べると遅くなりますが、結果として高品質でスケーラブルなシステムが構築できます。
ローコード
プログラムの多くの部分を自動化するためのビジュアル開発ツールを使用してプログラミングを簡略化する開発手法です。
ドラッグ&ドロップのインターフェースや、テンプレートを活用することでプログラミングの知識が少なくてもアプリケーションを作成することができます。
開発のスピードが向上し専門的な技術者のリソースを節約できるため、ビジネス部門やITの軽度なニーズに対応するために多く利用されます。しかし、カスタマイズの制限があり細かい要件に対応できない場合があります。
ノーコード
プログラミングの知識が全くない人でも使える開発手法です。
ユーザーは完全にビジュアルインターフェースを使用してウェブサイトやアプリケーションを作成できます。
ノーコードプラットフォームは多くの場合テンプレートやプリセットされた機能を提供し非技術者でも短期間で製品を開発することが可能です。
迅速にプロトタイプや基本的なアプリケーションを構築できるため個人や小規模なビジネスに人気です。
ただし、複雑なカスタム機能や大規模なシステム開発には不向きな傾向があります。
ノーコード製品2つを比較
日本で有名なノーコード製品「kintone」と「Yappli」を比較してみます。
kintone(キントーン)
サイボウズが提供するクラウド型業務アプリケーション作成プラットフォームで特にビジネスプロセスの改善や業務管理に強みを持っています。
顧客管理、プロジェクト管理、タスク管理などのビジネス用アプリをプログラミング不要で簡単に作成できます。
利点:
使いやすいビジュアルインターフェースでフォームのカスタマイズやデータの連携が簡単です。
非エンジニアでも業務アプリを迅速に作成できワークフローの自動化やチームコラボレーションを効率化します。
また、さまざまな外部システム(APIやプラグイン)との連携が可能で拡張性が高いのも特徴です。
中小企業から大企業まで幅広い利用層があります。
制限:
高度なカスタマイズや複雑なアプリケーションの構築には限界があり、大規模で複雑なシステム開発には不向きな場合があります。デザインの自由度が低いため、ビジュアルにこだわるアプリには適していません。
Yappli(ヤプリ)
ノーコードでモバイルアプリを作成・運用できるプラットフォームです。
特にモバイルアプリに特化しており、企業が自社アプリを短期間で開発しiOSやAndroid向けにリリースすることができます。EC、情報提供、マーケティングなど幅広い用途に対応しています。
利点:
モバイルアプリを簡単に開発できる点が大きな強みとなっています。
アプリ内でのプッシュ通知やユーザー行動の分析機能など、マーケティングや顧客エンゲージメントに必要な機能が充実しています。
デザインの自由度も高くビジュアルに優れたアプリを短期間で公開できるため、企業のマーケティング部門などに人気があります。
制限:
複雑なビジネスロジックや、バックエンドとの連携が必要なアプリ開発には向いていないため単純な情報提供やEC向けのアプリ作成に主に利用されています。
プラットフォーム自体がモバイルアプリに特化しているため、ウェブアプリや他のシステム連携には制限があります。
比較まとめ
対象領域:
kintoneは業務アプリ全般(主にビジネス管理)
Yappliはモバイルアプリに特化
使いやすさ:
kintoneもYappliもノーコードで直感的に使えるがkintoneは業務プロセスに強く、Yappliはモバイルユーザー向けのマーケティングやECアプリに強みがある。
拡張性:
kintone > Yappli
(APIや外部システムとの連携が容易)
デザイン自由度:
Yappli > kintone
(モバイルアプリのビジュアルを細かくカスタマイズ可能)
適用範囲:
kintone:ビジネス管理ツール全般
Yappli:はモバイルマーケティングやEC
ローコード製品2つを比較
日本で有名なローコード製品として「GeneXus」と「Wagby」を比較してみます。
GeneXus(ジェネクサス)
ウルグアイ発祥のローコード開発プラットフォームですが日本でも広く利用されています。
さまざまなプログラミング言語やプラットフォームに対応しておりWebアプリやモバイルアプリ、クラウドベースのアプリケーションを自動生成することができます。
ビジネス要件を定義するだけでコードを自動生成するため開発時間が大幅に短縮されます。
利点:
プログラムの自動生成機能が強力で特に業務アプリケーションの開発において生産性を向上させます。
複数のプラットフォームに対応し将来的な技術の変化にも柔軟に対応できる点が強みとなっています。
モバイルアプリの開発もサポートしておりデータベースやインフラとの統合が簡単に行えます。
制限:
自動生成されるコードの品質は場合によっては手作業で調整する必要があり特に複雑な要件がある場合には細かなチューニングが必要になることがあります。ただし、使いこなすためにはある程度の学習コストが必要となります。
Wagby(ワグビィ)
概要:
日本発のローコード開発プラットフォームで特に業務システムの開発に強みを持っています。
業務アプリケーションをドラッグ&ドロップで簡単に作成できデータベース設計、ユーザーインターフェース、帳票作成まで一貫してサポートします。
大規模なエンタープライズ向けのシステムから中小企業向けの業務アプリまで幅広い規模の開発に対応しています。
利点:
日本市場に特化したローコードプラットフォームで日本企業の業務ニーズに合った機能が豊富です。
複雑な業務システムの開発が効率化され特に帳票出力や日本語対応などローカルな要件に強みがあります。エンドユーザーがシステムを自分でカスタマイズしやすく運用後の変更も柔軟に対応可能です。
制限:
柔軟性に限界があり複雑なカスタムロジックや高度なデザインの自由度を求める場合には不向きです。
特定の業務に特化しているため一般的な用途での柔軟性はGeneXusに劣る点があります。
比較まとめ
自動生成機能:
GeneXus > Wagby(複数のプラットフォームに対応する自動生成が強力)
業務アプリ開発の適応性:
Wagby > GeneXus(日本の業務システムに特化)
拡張性と柔軟性:
GeneXus > Wagby
(複数の環境や技術に対応しやすい)
ローカルサポート:
Wagby > GeneXus
(日本市場向けの業務ニーズに対応)
学習コスト:
Wagbyの方が直感的に使いやすくGeneXusは高度な自動生成機能を使いこなすために学習が必要です
ローコードとノーコード開発の実例
地方自治体の業務効率化(kintone使用)
ある地方自治体では、申請手続きや業務プロセスが紙ベースやExcelで管理されており情報共有や処理が煩雑で時間がかかっていました。
そこでノーコードツール「kintone」を活用し申請管理や内部プロセスをデジタル化しました。 住民からの申請をkintoneで一元管理することで担当者間の情報共有が自動化され作業の効率が大幅に向上しました。
申請内容や進捗状況をリアルタイムで把握できるようになり申請者への対応がスピーディになりました。
また業務ごとにカスタマイズ可能なフォームやデータベース機能を活用し業務内容に応じた柔軟なシステム設計が可能となりました。
職員はプログラミングの知識がなくても簡単に操作でき、必要に応じてシステムの修正や機能追加も自分たちで行うことができました。これによりシステム導入後のコストや手間が大幅に削減され業務全体の生産性が向上しました。さらに、紙での業務が減少したことで環境への配慮にもつながりました。
企業のモバイルアプリ開発(Yappli使用)
ある大手小売企業は顧客向けのモバイルアプリを開発し顧客との接点を強化する必要がありました。
しかし、専任の開発者が不足しておりアプリ開発に時間とコストがかかる懸念がありました。
そこで、迅速かつ低コストでアプリを構築するためにローコードツール「Yappli」を導入することを決定しました。
ドラッグ&ドロップでアプリをデザインできプログラミング不要で機能を実装できます。
こちらの企業では顧客に特典クーポンを配信する機能や、ECサイトとの連携、プッシュ通知などを活用したアプリを短期間でリリースすることができました。
特にマーケティング部門が自らキャンペーンやプロモーションをアプリ内で自由に管理・更新できる点が大きな利点となっています。 アプリ公開後は顧客とのエンゲージメントが向上しリピート購入率も増加。さらにユーザーの行動データを活用して顧客の好みに応じたパーソナライズドな体験を提供できたため売上にも好影響を与えました。
このように迅速なモバイルアプリ開発と運用の自由度を高め企業のマーケティング活動を支援刷ることが可能となりました。
ローコードとノーコードの今後や市場の規模予測
日本におけるローコードおよびノーコードの今後や市場規模は、デジタル化の加速や人材不足などの要因から引き続き成長が見込まれています。
以下、今後の動向や市場規模予測を解説していきます。
市場規模の成長予測
ローコード、ノーコードの市場規模は日本国内においても急速に拡大していくと予測されています。
グローバル市場ではローコード・ノーコード開発プラットフォームは2023年から2027年にかけて年平均30%以上の成長が見込まれており日本市場でもこの流れに沿って成長が予測されています。
特に日本では企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が政策としても後押しされているため、この技術に対する需要はさらに高まると考えられます。
2025年までに日本のローコード/ノーコード市場は数百億円規模に達すると推定されており、多くの中小企業や自治体さらに大企業においても導入が進むと見られています。
ローコード・ノーコード技術の需要が高まる背景
日本国内でローコード・ノーコード技術の需要が高まる背景には主に以下の2つの要因があげられます。
1.DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進
日本企業の多くがDXを加速させ業務プロセスの効率化や新しいビジネスモデルの構築を目指しています。
ノーコード/ローコードツールは非エンジニアでもシステムを構築できるためビジネス部門が主体となって開発を進めることが可能です。開発スピードの向上と柔軟な運用を実現しDXの重要なツールとして位置づけられています。
2.IT人材不足
日本ではIT人材不足が続いており、企業が内製開発を進める上での障害となっています。
ローコード・ノーコードプラットフォームはエンジニアが不足していても迅速にアプリケーションを開発できるため人材不足の問題を補完する技術として注目されています。
専門的なプログラミングスキルを持たないビジネス部門が主体となって、システム開発を進めることができる点が組織全体の効率化に寄与しています。
主要な活用分野と今後の動向
ローコード・ノーコード技術は幅広い分野での応用が期待されています。
特に日本では次のような分野での導入が増加すると予想されます。
業務プロセスの自動化
事務処理の効率化、データ管理の自動化、在庫管理、顧客対応など日常的な業務プロセスの改善に多くの企業が利用しています。
ノーコードツールを活用することで業務担当者自身が業務アプリを開発・カスタマイズし現場のニーズに即したシステムが構築されます。
自治体・公共サービス
地方自治体でもノーコードプラットフォームを活用した業務システムの導入が進んでいます。
住民サービス向上や行政手続きの効率化を図るためのシステムが簡単に作成できるため地域ごとの独自ニーズにも柔軟に対応できるメリットがあります。
モバイルアプリ開発
日本ではモバイルアプリの重要性が増しておりローコード/ノーコードツールでのアプリ開発は短期間でのアプリリリースやマーケティング活動の迅速化を可能にします。
特にYappliのようなノーコードモバイルアプリ開発ツールは企業の顧客接点強化に貢献しています。
課題と今後の方向性
ローコード・ノーコード技術が成長する一方でいくつかの課題もあげられます。
高度なカスタマイズの限界
ノーコードツールでは柔軟に対応できる範囲が限られているためより複雑なシステムや大規模なアプリケーションの開発には限界があります。
また、高度なカスタマイズには依然として専門的なプログラミングスキルが求められる場合があります。
セキュリティやガバナンス
簡単にアプリを開発できることは利点ですがその反面、開発者のスキルや経験に応じてセキュリティリスクが生じる可能性があります。
今後はツール自体のセキュリティ機能や企業内でのITガバナンスの強化が重要なテーマになるでしょう。
まとめ
日本におけるローコード・ノーコードの市場はDX推進やIT人材不足といった背景から急速に拡大すると予想されており、特に中小企業、地方自治体、大手企業のマーケティング部門などでの活用が進み業務効率化やアプリ開発のスピード向上に寄与しています。
今後セキュリティやガバナンスの強化が課題となる一方で、技術の進化と共にさらなる成長が期待されています。