フリーランスの取引に関する新しい法律である「フリーランス新法」が2024年11月1日から施行されます。

フリーランスとして働く方にとって、フリーランス新法が事業にどのような影響を与えるのかは気になるところでしょう。

この記事では、フリーランス新法の具体的な内容を中心に、制定された背景や適応範囲などをわかりやすく解説します。

フリーランス新法の概要

フリーランス新法は、主にフリーランスへ業務委託する事業者に対して、取引条件の明示義務やフリーランスに対する禁止事項などを定めた法律です。

フリーランスの方が安心して働ける環境を整備する目的として、2023年5月12日に公布され、2024年11月1日からの施行が予定されています。

正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といい、フリーランス新法のほかにフリーランス保護新法などと呼ばれています。

フリーランス新法が誕生した背景

フリーランスは発注事業者と比べて不利な立場に立たされやすい傾向にあり、取引上不利益を被る機会が多いことが問題視されてきました。

2020年に内閣官房が実施した調査「フリーランス実態調査結果」によると、業務委託を受けたフリーランスの37.7%が取引先とのトラブルの経験があると回答しています。

取引先とのトラブルを経験した人のうち2割の人は「交渉せずに受け入れた」、1割の人は「交渉せずに自分から取引を中止した」と回答しており、3割程度のフリーランスが泣き寝入りするような形で対応しているとの結果が出ています。

また、同調査結果において事業者から業務委託を受けるフリーランスの40.4%が1社のみと取引している現状を鑑みると、フリーランスは1つの発注者に大きく依存しやすく、トラブルが発生しても契約解除を危惧して積極的に交渉しづらいのが現状です。

このような状況を踏まえて、法人に対して立場の弱いフリーランスの労働環境を整備するため、フリーランス新法が制定されたのです。

参考:内閣官房「フリーランス実態調査結果」

フリーランス新法の適用範囲

フリーランス新法は、発注事業者(特定業務委託事業者)からフリーランス(特定受託業者)に対して業務委託をした場合に適用される法律です。

フリーランス新法において、発注事業者とフリーランスは以下のとおり定義されています。

・発注事業者:フリーランスに業務委託する事業者で、従業員を使用する者
・フリーランス:業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しない者

したがって、従業員を使用して事業を行っている場合は、フリーランス新法におけるフリーランスには該当しません。

ただし、短時間・短期間等の一時的に雇用される者のみを雇っている事業者は、フリーランス扱いになります。

規制対象となる業種の制限はありませんので、あらゆる業種業態の発注事業者とフリーランスとの間の取引が適用対象となります、

フリーランス新法の内容について

会社の規模を問わず、フリーランスに業務を発注する事業者には、主に以下7つの義務や禁止事項が課されます。

  1. 書面等による取引条件の明示
  2. 報酬支払期日の設定・支払遅延の禁止
  3. 特定業務委託事業者の遵守事項
  4. 募集情報の的確な表示
  5. 育児・介護等と業務の両立に対する配慮
  6. ハラスメント対策に関する体制整備
  7. 解雇等の事前予告

フリーランス新法の内容を詳しくみていきましょう。

1. 書面等による取引条件の明示(法3条)

発注事業者からフリーランスに対して業務委託をする際は、「委託する業務の内容」「報酬の額」「支払期日」等の取引条件を書面またはメールによって明示しなければなりません。

フリーランスから書面の交付を求められたときは、書面で交付しなければならないとされています。

本規約は、すべての発注事業者に適用されるため、フリーランスが別のフリーランスに業務を委託する場合にも適用を受けることになります。

2. 報酬支払期日の設定・支払遅延の禁止(法4条)

発注事業者は、フリーランスから発注した納品物を受け取った日から数えて60日の期間内に報酬支払期日を設定し、期日内に報酬を支払わなければなりません。

業務委託が再委託の場合には、発注事業者が業務の発注元から支払いを受けた日から、30日以内にできる限り早く支払えば問題ありません。

3. 特定業務委託事業者の厳守事項(法5条)

フリーランスと一定期間以上、継続的に仕事をする場合、発注事業者は以下に該当する行為をしてはなりません。

【受領拒否】フリーランス側の責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること
【報酬の減額】フリーランス側の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
【返品】フリーランス側の責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
【買いたたき】通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
【購入・利用強制】正当な理由なく自己の指定する物の購入・役割の利用を強制すること
【不当な経済上の利益の提供要請】自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること【不当な給与内容の変更・やり直し】フリーランス側の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること

出典:内閣官房「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」

本規約は「一定期間以上の業務委託」に限定されており、対象となる業務期間については「1か月」以上となる見込みで現在検討が進められています。

したがって、単発での依頼には適用されません。

4. 募集情報の的確な表示(法12条)

発注事業者が広告等にフリーランスの募集に関する情報を掲載する場合、正確かつ最新の募集情報を保ち、虚偽の表示や誤解を生むような表示をしてはなりません。

本規約に違反することになる表示の具体的な例としては、以下のようなものが挙げられます。

・意図的に実際の報酬額よりも高い額を表示する
・実際に募集を行う企業とは違う企業の名前で募集を行う
・すでに募集を終了している情報を削除しない

当事者の合意に基づいて、当初の募集情報から実際の取引条件を変更することは本規定の違反にはなりません。

5. 育児・介護等と業務の両立に対する配慮(法13条)

発注事業者がフリーランスに対して一定期間以上の継続的な業務委託を行う場合は、結婚、出産、育児・介護と業務の両立ができるよう、必要な配慮を行わなければなりません。

フリーランス側からの申し出があれば、就業条件に関する交渉や変更に応じる必要があります。

対象となるのは「継続的業務委託」に限られているため、単発での依頼には適用されません。

6. ハラスメント対策に関する体制整備(法14条)

発注事業者は、フリーランスに対するハラスメント行為について、適切に対応するための体制整備などの措置を講じなければなりません。

具体的には、「従業員に対してハラスメント防止のための研修を実施する」「ハラスメントが発生した場合は迅速に事実関係を把握する」等の対応が想定されます。

また、発注事業者は、フリーランスがハラスメントの相談を行ったことや、相談対応に協力したことを理由として、業務委託の解除その他の不利益な取り扱いをしてはならないとされています。

7. 解雇等の事前予告(法16条)

フリーランスとの継続的な業務委託を中途解約したり、 更新しないこととしたりする場合は、原則として30日前までに予告をする必要があります。

また、フリーランスから契約解除や不更新の理由の開示を請求された場合、発注事業者は延滞なく開示しなければなりません。

特定受託事業者がすべきこと

フリーランス新法においてフリーランスがすべきこととして、発注事業者の違法行為に対して声を上げることが挙げられます。

フリーランス新法の規定に違反する事実があった場合、フリーランスは公正取引委員会または中小企業庁に法律違反を申し出ることで、発注事業者に対して適当な措置を取るように求めることができると定められています(法17条)。

また、2020年よりフリーランスのための相談窓口「フリーランス・トラブル110番」も設立されており、厚生労働省より認可された弁護士から無料でアドバイスを受けられるほか、適切な相談機関の案内を受けることも可能です。

公的機関への申出を理由に、取引停止その他の不利益取扱をすることを禁止されていますので、発注事業者の違法行為に対して泣き寝入りする必要はありません。

フリーランスのみなさんは、自身の権利を守るために積極的に声を上げ、必要に応じて適切な機関に相談することができます。

業務委託事業者がすべきこと

フリーランス新法において、発注事業者としては、フリーランスとの公平な取引・契約に努めなければなりません。

フリーランス新法の遵守事項に違反してしまうと、行政から指導や勧告などを受ける恐れがあるため注意が必要です。

2024年11月1日からの施行に向けて、マニュアルを作成してフリーランス新法を社内に周知したり、フリーランスの就業環境を意識した体制整備を推し進めたりするなどの対策が求められます。

違法行為があった場合の罰則など

発注事業者がフリーランス新法に違反した場合、行政からの指導、勧告、立入検査、公表、命令などの履行確保措置が行われます。

命令違反や虚偽申告などがあると50万円以下の罰金の対象となります。

発注事業者の従業員が違反行為を行うと、違反者本人のみならず、事業主である法人も罰則の対象となることに留意しなければなりません。

まとめ

この記事では、フリーランス新法の内容を中心に、誕生した背景や適用範囲などを解説しました。

フリーランス新法は、2024年11月1日から施行される新しい法律です。

発注事業者がフリーランスを不当に扱うことが禁止され、 発注事業者はさまざまな遵守事項を守らなければなりません。

フリーランス新法の制定によって、フリーランスの労働環境が大幅に改善され、多くの人々が安心してフリーランスとして働くことができるようになるでしょう。